スタッフが増えてきたけれど就業規則がない、作ったものの引き出しに眠っている。美容室では、こうしたケースが少なくありません。就業規則は、残業や有給、休日、辞めるときの手続きといった働くうえでのルールをまとめたもので、トラブルを防ぎ、働きやすい環境を整える土台になります。この記事では、美容室の経営者の視点から、就業規則が必要になる場面と書いておきたい基本、そして作った後に効かせるためのポイントを整理しました。なお本記事は一般的な解説で、自店の規則づくりや法的な判断は社会保険労務士など専門家にご相談ください。ルールを整えることは、スタッフを縛るためではなく、安心して働ける場をつくるためのものです。
この記事を3行で解説
- 常時10人以上を使用する事業所は就業規則の作成・届出が法律上の義務(2026年6月時点)
- 労働時間・賃金・退職に関する事項は必ず書く必要があり、美容室ならではの項目も整える
- 就業規則は周知して初めて効力を持つ。作って終わりにせず運用と見直しが大切
1. 美容室に就業規則は必要か
要点:常時10人以上の事業所は就業規則の作成・届出が法律上の義務。10人未満でも整えるとトラブルを防げる。
これから就業規則が必要になる場面について解説します。自店に義務があるかをまず確認しましょう。
- 1-1 常時10人以上は作成・届出が義務
- 1-2 10人未満でも整えるメリット
1-1 常時10人以上は作成・届出が義務
常時10人以上の従業員がいる事業所は、就業規則を作成して労働基準監督署に届け出る義務があります。
これは労働基準法(昭和22年法律第49号)第89条で定められたもので、パートやアルバイトを含めた人数で判断され、店舗ごとが一つの事業所として数えられるのが一般的だからです〔厚生労働省「モデル就業規則(令和7年12月版)」・就業規則の作成・届出〕。2026年6月時点の情報で、詳細な適用は個別の状況によります。
複数店舗があっても、各店舗の人数で見ると10人に満たないこともあります。自店が義務の対象かどうかは、雇用形態や数え方によって変わるため、判断に迷うときは社会保険労務士に確認するのが安心です。
1-2 10人未満でも整えるメリット
法律上の義務がない規模でも、就業規則を整えておく意味は大きいです。
働くうえでのルールがあいまいなままだと、残業や有給、休日の扱いで認識のずれが起き、後からトラブルになりやすいからです。口約束だけでは、言った言わないになりがちです。
あらかじめルールを文章にしておけば、スタッフは安心して働け、経営者も一貫した対応ができます。義務の有無にかかわらず、お店が一定の規模になったら整えておくと、人が増えても揺らがない土台になります。
2. 就業規則に書く基本的なこと
要点:労働時間・賃金・退職に関する事項は必ず記載が必要とされる項目。美容室ならではの働き方も合わせて整える。
これから就業規則に書く基本項目について解説します。最低限おさえるべき柱があります。
- 2-1 必ず書く項目(労働時間・賃金・退職)
- 2-2 美容室ならではの項目も整える
2-1 必ず書く項目(労働時間・賃金・退職)
就業規則には、必ず書かなければならない基本の項目があります。
始業・終業の時刻や休憩、休日といった労働時間に関すること、給与の決め方や締め日・支払日といった賃金に関すること、退職や解雇の手続きに関することは、絶対的必要記載事項と呼ばれ、明記が求められているからです。
これらが抜けていると、規則として不十分になります。自店の実態に合わせて、この三つの柱をまず正確に書き起こすことが出発点です。細かい書き方や法令との整合は、専門家に確認しながら進めると確実です。
2-2 美容室ならではの項目も整える
基本項目に加えて、美容室の現場に合った内容も整えておきます。
指名やアシスタント業務、薬剤や備品の扱い、SNSでの発信、繁忙期の勤務など、美容室特有の場面でルールがないと、判断が人によってぶれてしまうからです。
身だしなみや勤務中のスマホの扱い、講習会の時間の考え方など、自店で起こりやすい場面を想定して定めておく。現場の実態に即した規則にしておくと、日々の運用で迷いが減り、スタッフも納得して動けます。
3. 作って終わりにしない
要点:就業規則は周知して初めて効力を持つ。変更のたびに周知し直し、定期的に見直す。
これから就業規則を効かせるための運用について解説します。作るだけでは意味がありません。
- 3-1 スタッフに周知して初めて効く
- 3-2 変更時も周知し運用を見直す
3-1 スタッフに周知して初めて効く
就業規則は、スタッフに周知して初めて効力を持ちます。
作って届け出ても、内容がスタッフに知らされていなければ、ルールとして機能しないとされているからです。引き出しにしまったままでは、いざというときに根拠になりません。
いつでも見られる場所に置く、入社時に説明する、変更時に伝えるなど、全員が内容を知っている状態をつくる。周知まで行って、はじめて就業規則はお店を守る道具になります。
3-2 変更時も周知し運用を見直す
就業規則は一度作って終わりではなく、変更のたびに周知し直します。
法改正や働き方の変化に合わせて内容を見直す必要があり、変えた場合も周知しなければ効力に影響するからです。古いままの規則は、現場と食い違ってトラブルのもとになります。
最低賃金の改定や制度の変更があったとき、勤務形態を変えたときなどに合わせて見直し、変更内容をスタッフに伝える。定期的に手入れする前提で運用することが、規則を生きたものに保ちます。
4. 経営の土台としての就業規則
要点:就業規則は守りのルールであると同時に、どんな働き方を大事にするかを示す経営者のメッセージ。
これから就業規則の位置づけについて解説します。守りだけでなく、経営の土台になります。
- 4-1 ルールブックであり経営者のメッセージ
- 4-2 整備は社労士と進めると安心
4-1 ルールブックであり経営者のメッセージ
就業規則は、お店のルールブックであると同時に、経営者からのメッセージでもあります。
どんな働き方を大事にし、何を守ってほしいのかが規則に表れ、スタッフはそこからお店の考え方を受け取るからです。規則の中身は、お店が人をどう扱うかの姿勢そのものになります。
ルールや制度は、お店の理念とつながっていることが大切です。働きやすさと納得を生む規則は、スタッフの安心と定着につながり、結果として経営を支えます。
4-2 整備は社労士と進めると安心
就業規則の作成や見直しは、社会保険労務士と進めるのが安心です。
法令に沿った内容になっているか、自店の実態に合っているかは専門的な判断が必要で、不備があると本来の効力を発揮できないことがあるからです。ひな形をそのまま使うと、自店に合わない部分が残ることもあります。
基本の考え方を経営者が持ったうえで、細部は専門家と詰めていく。法的な正確さと現場への適合の両方を満たすために、専門家の力を借りることをおすすめします。
まとめ:就業規則は「安心して働ける場」をつくる土台
美容室では、常時10人以上の従業員がいる事業所に就業規則の作成・届出が義務づけられています(2026年6月時点)。10人未満でも、労働時間・賃金・退職といった基本のルールを整えておくと、認識のずれによるトラブルを防げます。さらに、美容室ならではの場面を想定した項目を加え、作った後はスタッフに周知し、変更のたびに伝え直すことで、就業規則は生きた道具になります。これはスタッフを縛るためではなく、安心して働ける場をつくり、お店の経営を支えるためのものです。本記事は一般的な解説ですので、具体的な作成・判断は社会保険労務士など専門家にご相談ください。
押さえておきたいポイントは次の通りです。
- 常時10人以上の事業所は作成・届出が義務(2026年6月時点・詳細は専門家へ)
- 労働時間・賃金・退職は必ず記載。美容室特有の項目も整える
- 周知して初めて効力。変更時も周知し定期的に見直す
- ルールブックであり経営者のメッセージ。整備は社労士と進めると安心
よくある質問
Q1. スタッフが数人の小さな美容室でも就業規則は必要ですか?
法律上の作成・届出義務は、一般的に常時10人以上の従業員がいる事業所が対象とされています(2026年6月時点)。そのため少人数のお店では義務がないこともありますが、義務がなくても整えておく価値は大きいです。労働時間や有給、休日などのルールが文章になっていれば、認識のずれによるトラブルを防げ、スタッフも安心して働けます。自店が義務の対象かどうかや、整えるべき内容は、社会保険労務士に確認すると確実です。
Q2. インターネットのひな形をそのまま使ってもいいですか?
出発点として参考にするのは良いですが、そのまま使うのはおすすめしにくいです。ひな形は一般的な内容のため、自店の勤務形態や実態に合わない部分が残りやすく、法令の改正に追いついていない場合もあるからです。美容室特有の働き方を反映し、法令に沿った内容にするには、専門的な確認が必要です。たたき台としてひな形を使いつつ、最終的には社会保険労務士に内容を見てもらうと安心です。
Q3. 就業規則を作ったのに、あまり活用できていません。
就業規則は、スタッフに周知され、日々の運用で参照されて初めて意味を持ちます。作って届け出ただけで引き出しにしまっていると、いざというときの根拠になりません。まずは全員がいつでも見られる状態にし、入社時や変更時に説明する習慣をつくりましょう。あわせて、法改正や働き方の変化に合わせて定期的に見直すことで、規則は現場と食い違わない生きた道具になります。
▶ この記事は美容室経営の教科書(全体像)の一部です。
免責事項:本記事は美容室の就業規則に関する一般的な情報提供を目的としたもので、個別の法的判断や特定の対応を保証するものではありません。就業規則の作成・変更・届出は労働基準法など関係法令に基づく専門的な判断を要するため、実際の整備にあたっては社会保険労務士など専門家にご相談ください。記載の制度は2026年6月時点の情報です。
更新履歴
2026年6月17日:初版公開
2026年7月11日:常時10人以上の事業所の作成・届出義務(労働基準法第89条)について厚生労働省「モデル就業規則(令和7年12月版)」への一次リンクを追加し、各章の要点・目次を追記。

