繁忙期が終わって予約がゆっくりしてくると、この閑散期に何か手を打たなければと焦って、新メニューや新しい物販、新しい集客企画を次々に足していく。よくある光景ですが、実はこの足し算が、かえって売上を細らせる落とし穴になりがちです。閑散期に本当に効くのは、増やすことではなく整理すること。少ないメニューに絞り込むほど、現場は洗練され、お客様も選びやすくなり、店の強みがはっきりしていきます。この記事では、閑散期に多くの店がやってしまう対策の間違いから、メニュー整理という引き算の考え方、何を残し何を削るかの具体的な設計までを、株式会社VOCの現場ノウハウをもとに解説していきます。読み終わるころには、この閑散期に何をすべきかが見えるはずです。
- 閑散期に新メニューや商品を足すほど、覚える・教える・在庫・工数が増え、かえって現場が消耗して売上が細る。
- 選択肢が多いとお客様は選べなくなる(ジャムの法則)。閑散期こそ足し算でなく引き算で、メニューを整理する。
- 残すか削るかはコンセプトとの連動で決める。浮いたコストを強みに一点集中させると、少ないメニューで独自性が立つ。
1. 美容室の閑散期とは|多くの店が対策を間違える理由
要点:閑散期は繁忙期の反動で予約がゆるむ時期のこと。時間ができる分、新しいものを足したくなりますが、その足し算こそが売上を落とす原因になりがちです。
これから美容室の閑散期について解説します。まずは次の2つを順番に見ていきます。
- 1-1 閑散期はいつ来るのか
- 1-2 足し算で乗り切ろうとして逆に売上を落とす
1-1 閑散期はいつ来るのか
閑散期は、繁忙月の次の月にやってくることが多い時期です。年末や卒業・入学シーズンなどでお客様が集中したあと、その反動で予約がゆっくりになります。1月から2月にかけてが典型ですが、店の客層によって時期はずれます。まずは自店の売上データを月ごとに並べて、どの月が落ちるのかを把握しておくことが出発点です。
予約に余裕ができるので、この時間を使って何か仕込もうと考えるのは自然なことです。新しい集客企画を立てたり、物販の企画を組んだり、新メニューを導入して単価アップの準備をしたり。時間のある閑散期に準備すること自体は、とても大事な取り組みです。
1-2 足し算で乗り切ろうとして逆に売上を落とす
ただ、ここに落とし穴があります。売上を上げようとして足し算ばかりすると、かえって売上の減少につながることがあるのです。商品やメニューが増えると、覚えることが増え、教えることが増え、伝えることが増え、在庫が増え、管理も工数も増えます。数に比例して現場の負担が積み上がり、ミスの可能性まで増えていきます。
VOCの現場では、この点をはっきり言い切っています。閑散期におすすめなのは、足し算よりも引き算だと。時間があるからこそ、増やす方向ではなく整理する方向に頭を使う。ここが、閑散期対策で伸びる店とすり減る店の分かれ目になります。
2. 閑散期の落とし穴|メニューを増やすほど売れなくなる
要点:メニューを増やすと現場のコストが増えるだけでなく、選択肢が多すぎてお客様が決められなくなります。有名なジャムの法則が、その仕組みを示しています。
これからメニューを増やすことのデメリットを解説します。次の2つを見ていきます。
- 2-1 商品・メニューが増えると現場のコストが増える
- 2-2 選択肢が多いとお客様は選べない
2-1 商品・メニューが増えると現場のコストが増える
メニューや商品の数は、そのまま現場の仕事量に跳ね返ります。新メニューを一つ増やせば、技術を覚え、後輩に教え、お客様に説明し、必要な材料を在庫として抱え、その在庫を管理する、という工程がまるごと増えます。閑散期に良かれと思って足したものが、繁忙期に現場を圧迫する荷物になってしまうのです。
逆に、メニューを減らすと何が起きるか。覚えることが減り、教えることが減り、伝え方が洗練され、在庫も減ります。やることが数に比例して減っていくので、一つひとつの提案やオペレーションの質が上がります。管理の手間が本業を圧迫しているなら、引き算のほうが得られるものは大きいのです。
2-2 選択肢が多いとお客様は選べない
お客様側の心理も見逃せません。マーケティングにジャムの法則と呼ばれる有名な実験があります。心理学者のシーナ・アイエンガー(現コロンビア大学)とマーク・レッパー(スタンフォード大学)が行った研究で、スーパーの試食売り場に24種類のジャムを並べた場合と6種類に絞った場合を比べたものです〔シーナ・アイエンガーほか/When Choice is Demotivating/2000年〕。
種類が多い24種類のほうが試食に立ち寄る人は多かったのですが、実際に購入した人の割合は約3%にとどまりました。一方、6種類に絞ったほうは試食に立ち寄る人は少なかったものの、購入率は約30%に達したのです。選択肢が多すぎると、人は決めるのがおっくうになり、決定を先延ばししたり諦めたりしてしまう。これを決定麻痺と呼びます。携帯電話のプランでも、100種類から選んでくださいと言われるより、あなたにはこの3つがおすすめですと言われたほうが選びやすいのと同じです。メニューが多いほど売れるとは限らない、というのはこういう理由です。
3. 閑散期こそ引き算|メニュー整理で店を強くする
要点:閑散期は増やすより整理する好機です。少ないことこそ豊かというレス・イズ・モアの発想で、よりすぐりに絞ると独自性が立ちます。
これから引き算の考え方を解説します。次の2つを見ていきます。
- 3-1 減らすと現場が洗練される
- 3-2 少ないことこそ豊か(レス・イズ・モア)
3-1 減らすと現場が洗練される
予約に余裕がある閑散期は、腰を据えてメニューを見直す絶好のタイミングです。ふだんの忙しさの中では手をつけにくい棚卸しを、この時期にやってしまう。使われていないメニュー、コンセプトからずれた商品、説明に手間がかかる割に選ばれないもの。これらを思い切って削ると、残ったメニューに現場の集中が向き、提案もオペレーションも洗練されていきます。
整理は勘ではなく数字で進めます。メニューごとの実施件数や粗利を並べ、貢献の薄いものから候補に挙げていく。メニューの構成そのものの考え方は美容室のメニューの作り方でも解説しているので、あわせて確認すると整理の基準がはっきりします。
3-2 少ないことこそ豊か(レス・イズ・モア)
引き算の背景にあるのは、レス・イズ・モア、つまり少ないことこそ豊かであるという考え方です。もともとは建築の概念で、必要最小限のものに囲まれた空間ほど心地よいという発想です。店づくりも同じで、あれもこれもと詰め込むより、よりすぐりのものに絞ったほうが価値が伝わります。
百貨店が千貨店でも万貨店でもなく百貨店と名づけられたのは、世の中の膨大な商品の中からよりすぐりの品を扱う、というコンセプトがあったからだと言われます。美容室も、たくさん扱えることを価値にするのではなく、この店はこれ、と絞り込むほど独自性が立ちます。少ないメニューで独自性を持たせることは、価格競争から抜け出す差別化のやり方にも直結します。
4. 何を残し何を削るか|コンセプトで決める
要点:残すか削るかの判断軸はコンセプトとの連動です。VOCはERRCグリッドという枠組みで、いらないものを削り、浮いたコストを強みに一点集中させています。
これから残すものと削るものの決め方を解説します。次の2つを見ていきます。
- 4-1 コンセプトと連動しないものは削る
- 4-2 浮いたコストを強みに一点集中させる
4-1 コンセプトと連動しないものは削る
何を削るかで迷ったら、基準はひとつです。サロンのコンセプトと連動していないものは削る。ここは多くの店が落とし穴にはまるところです。濃厚な豚骨ラーメンを看板にしている店が塩ラーメンや醤油ラーメンも置いてしまうと、一貫性が崩れ、こってりを求めて来た人を戸惑わせます。美容室も同じで、コンセプトに合わないメニューを並べると、自分で自分のブランディングを壊してしまいます。
VOCはブランディングの鉄則を、コンセプトに対して嘘をつかないことだと表現しています。だから削る基準は売上の大小だけではなく、この店らしさに合っているかどうか。コンセプトそのものが曖昧だと判断できないので、先に軸を固めることが大切です。決め方は美容室のコンセプトの作り方で解説しています。
4-2 浮いたコストを強みに一点集中させる
VOCが店づくりに使っているのが、ERRCグリッドという枠組みです。これはブルー・オーシャン戦略で知られる考え方で、業界の常識から何を取り除き、何を減らし、何を増やし、何を付け加えるかを整理するものです。要は、いらないものを徹底的に排除して、浮いたコストを自分たちが強めたいところに集中投下する発想です。
VOCが手がけるリラクゼーション特化型の店では、デザインカラーやパーマ、指名制、さらには会話までを削っています。その分、教育コストや材料費が浮くので、浮いた原資を癒しの体験に集中させ、マッサージ機能のあるシャンプー台を独自に用意するといった投資に回しています。何を削るかは、何を強めるかとセットです。削って終わりにせず、生まれた余力を看板メニューに寄せることで、少ないメニューでも際立つ店になります。
5. 閑散期にやるべき攻めの準備
要点:整理で守りを固めたら、空いた時間を次の繁忙期の仕込みに使います。既存客への働きかけと、現場の教育・オペレーション整備が中心です。
これから閑散期にやるべき準備を解説します。次の2つを見ていきます。
- 5-1 既存客・休眠客への働きかけ
- 5-2 繁忙期に向けた教育とオペレーション整備
5-1 既存客・休眠客への働きかけ
閑散期の予約を埋めるとき、新規獲得に費用をかけるより、すでに関係のあるお客様に声をかけるほうが効率的です。しばらく来店の途絶えている休眠客に、来店周期に合わせたタイミングで連絡を入れるだけでも、予約は動きます。やり方は休眠客を掘り起こす方法で詳しく扱っています。
ここでも軸はコンセプトです。値引きだけで呼び戻すと、値引きでしか動かないお客様が集まってしまいます。整理したメニューの中から、その人に合う提案を添えて連絡するほうが、閑散期のあとにも続く関係になります。
5-2 繁忙期に向けた教育とオペレーション整備
予約に余裕のある閑散期は、繁忙期にはできない教育や仕組みづくりの好機です。整理したメニューをスタッフ全員が同じ質で提供できるようロープレでそろえ、カウンセリングや会計までの流れを見直しておく。ここを閑散期に仕込んでおくと、繁忙期に現場が回りやすくなります。
教育を場当たりにせず仕組みにする考え方は美容室経営の教科書で全体像を確認できます。閑散期は、削って、整えて、次に備える時期。この使い方ができる店ほど、一年を通じて安定していきます。
6. まとめ|要点とチェックリスト
美容室の閑散期対策は、足し算ではなく引き算で考えるのが要点です。メニューや商品を増やすほど現場のコストは膨らみ、選択肢が多いほどお客様は決められなくなります。閑散期こそメニューを整理し、コンセプトと連動しないものを削り、浮いたコストを強みに集中させる。守りを固めたうえで、既存客への働きかけと繁忙期に向けた教育を仕込む。この順番で使えば、閑散期は消耗の時期ではなく、店を強くする時期に変わります。
- 自店の売上を月ごとに並べ、どの月が落ちるかを把握できているか
- 閑散期に足し算で乗り切ろうとしていないか
- 実施件数や粗利をもとに、貢献の薄いメニューを整理できているか
- 削る基準がコンセプトとの連動になっているか
- 削って浮いたコストを、強みや教育に振り向けているか
よくある質問
Q1. メニューを減らすと売上が下がりませんか?
短期的に不安に感じますが、減らすことで現場の負担が下がり、提案が洗練され、お客様も選びやすくなります。ジャムの法則が示すように、選択肢が多いほど購入率はむしろ下がることがあります。大事なのは何を削るかで、コンセプトと連動しない貢献の薄いメニューから整理すれば、売上を守りながら店の強みを立てられます。
Q2. 閑散期に新メニューを導入するのは間違いですか?
導入そのものが悪いわけではありません。問題は、既存を整理しないまま足し算で増やすことです。新メニューを入れるなら、同時にコンセプトから外れたものを削り、全体の数は増やさない。入れ替えの発想で臨むと、現場を消耗させずに新しさを保てます。
Q3. 何から手をつければいいですか?
まず自店の売上を月別に並べて閑散期を特定し、次にメニューごとの実施件数と粗利を出します。そのうえで、コンセプトと連動していない・貢献が薄いものを削る候補に挙げ、削って浮いた時間とコストを、休眠客への声かけと繁忙期に向けた教育に振り向けます。この順番で進めると迷いません。
本記事は美容室経営の一般的な情報提供を目的としたものです。記載した事例や数値は各種の研究・調査および2026年9月時点の情報にもとづくもので、実際の運用は自店の状況に合わせてご判断ください。個別の経営判断については専門家へのご相談をおすすめします。
更新履歴
2026年9月4日:初版公開



