毎年のように過去最大の引き上げが続く最低賃金。美容室の現場では、とくにアシスタントの給与が最低賃金に近い水準のため、改定のたびに人件費が自動的に押し上げられます。社会保険料や薬剤などの仕入れ値も上がるなか、価格を据え置いたままでは利益はじわじわ削られていきます。とはいえ、値上げをすればいいという単純な話でもありません。この記事では、最低賃金が今どうなっているのか、美容室経営にどんな影響があるのか、そして値上げの前に整えておきたい設計の視点まで、現場とお店の両面でまとめました。
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- 2025年度改定で最低賃金の全国加重平均は約1,121円。政府は2020年代に1,500円を目標としている
- アシスタント給与・社会保険料・仕入れ値が同時に上がり、価格据え置きでは利益が削られる
- 対応は値上げの是非ではなく、コンセプトと価値、教育、単価設計をそろえて原資を生む発想がカギ
1. 最低賃金は今どうなっているのか
これから最低賃金の現状について解説します。数字の流れをつかむと、自店への影響が見えてきます。
- 1-1 2025年度改定で全国平均は約1,121円になった
- 1-2 政府は2020年代に1,500円を目標にしている
1-1 2025年度改定で全国平均は約1,121円になった
2026年6月時点で適用されている最低賃金は、2025年度の改定によるものです。
厚生労働省によると、2025年度改定後の全国加重平均は約1,121円で、前年度の1,055円から過去最大級の引き上げとなりました。新しい金額は2025年10月以降、都道府県ごとに順次適用されています。地域差はありますが、東京都はすでに前年度の段階で1,163円に達しており、都市部ほど水準は高くなっています。
次の改定は例年どおりなら2026年の秋に内容が決まる見込みです。つまり、最低賃金は一度きりの話ではなく、毎年見直される前提で考えておく必要があります。
1-2 政府は2020年代に1,500円を目標にしている
国は、最低賃金の全国平均を2020年代のうちに1,500円へ引き上げる目標を掲げています。
報道や民間調査によれば、仮に2029年度に達成する場合でも、2025年度からの引き上げ率は年平均7%超が必要とされ、過去の水準を上回るペースになります。あわせて、目標を上回る引き上げを行う都道府県への補助金など、中小企業を支える支援策も検討・表明されています。
達成できるかどうかには専門家のあいだでも見方が分かれますが、当面は高い上げ幅が続く前提で備えておくのが現実的です。
2. 最低賃金の上昇が美容室経営に与える影響
これから最低賃金が美容室に与える影響について解説します。コスト構造を知ると、打ち手の優先順位が定まります。
- 2-1 アシスタントの人件費が自動的に上がる
- 2-2 社会保険料や仕入れ値の上昇も重なる
- 2-3 価格を据え置くと利益が削られる
2-1 アシスタントの人件費が自動的に上がる
最低賃金の改定は、美容室の人件費を自動的に押し上げます。
アシスタントやパートの時給を最低賃金に近い水準で設定しているお店が多く、法律上の最低額が上がれば、給与もそれに合わせて引き上げざるを得ないからです。一人ひとりの差は小さく見えても、人数とシフト時間をかけ合わせると、年間では無視できない金額になります。
採用したばかりのアシスタントほど売上への貢献はこれからという段階のため、最低賃金の上昇は、育成期間中のコストとして重くのしかかります。
2-2 社会保険料や仕入れ値の上昇も重なる
上がるのは時給だけではありません。
給与が上がれば、それに連動して社会保険料の事業主負担も増えます。さらに、カラー剤やパーマ液などの薬剤費もここ数年で上昇しており、仕入れコストの上昇を感じている美容事業者は少なくありません。人件費・社会保険料・材料費が同じ時期に重なって上がることで、固定費全体が膨らみます。
一つひとつは数十円、数パーセントでも、合算すると一店舗あたりの負担は年単位でまとまった額になります。
2-3 価格を据え置くと利益が削られる
コストが上がるなかで価格を据え置くと、利益はそのぶん細っていきます。
売上が同じでも費用が増えれば、手元に残る利益は減るからです。とくに客単価や来店数が横ばいのお店では、最低賃金が上がるたびに利益率が下がっていく構造になります。
値上げをすれば解決と考えがちですが、何の準備もなく価格だけ上げれば、お客様が離れるリスクもあります。だからこそ、価格をどう見直すかの前に、整えておきたい土台があります。
3. 美容室がとるべき対応
これから具体的な対応について解説します。順番を意識すると、値上げが怖くなくなります。
- 3-1 価格を見直す前にコンセプトと価値を設計する
- 3-2 アシスタントの早期戦力化で生産性を上げる
- 3-3 単価とメニュー設計を整える
- 3-4 補助金や効率化も組み合わせる
3-1 価格を見直す前にコンセプトと価値を設計する
値上げの前に、まず「何にお金を払ってもらうお店なのか」を整えます。
価格は、お客様が感じる価値とセットで初めて受け入れられるからです。同じ金額でも、お店のコンセプトや提供する体験がはっきりしていれば、値上げは納得につながり、あいまいなままだと不満になります。VOCのマネジメントでは、理念・組織・教育・売上を一枚の設計図としてつなげて考えますが、価格もその設計の一部です。
自店の強みや世界観を言葉にし、メニューや接客、店内の体験に一貫させていく。価値が伝わるお店になっていれば、最低賃金の上昇を価格に反映しても、選ばれ続けられます。
3-2 アシスタントの早期戦力化で生産性を上げる
上がった人件費に見合うよう、アシスタントが早く戦力になる仕組みを整えます。
同じ時給を払うなら、できるだけ早く売上に貢献できる状態になってもらうほうが、人時あたりの生産性が上がるからです。育成が場当たりだと、デビューまでの期間が延び、コストばかりがかさみます。
習得すべき技術と順番を明確にし、誰が教えても同じ基準で育つカリキュラムにする。教育を設計しておくことが、最低賃金上昇への一番地道で確実な備えになります。
3-3 単価とメニュー設計を整える
客単価とメニューの構成も、あわせて見直します。
来店数を一気に増やすのは難しくても、一人あたりの単価はメニュー設計で変えられるからです。押し売りではなく、お客様の悩みに合った提案ができる構成になっているかが問われます。
髪質改善やトリートメントなど、価値が伝わりやすいメニューを軸に整え、カウンセリングで必要な人に必要な提案をする。単価が自然に上がる設計にしておけば、値上げに頼りきらずに原資をつくれます。
3-4 補助金や効率化も組み合わせる
制度や仕組みの面からも、負担をやわらげます。
最低賃金の引き上げに対しては、国や自治体の支援策が用意されることがあり、設備投資や賃上げに使える補助金を活用できる場合があるからです。あわせて、予約や会計、在庫管理などの効率化で、ムダな時間とコストを削ることもできます。
使える補助金がないか定期的に確認し、デジタルツールで事務作業を減らす。価格と生産性の見直しに、制度と効率化を組み合わせることで、対応の幅が広がります。なお、補助金の要件や金額は年度や時期で変わるため、申請時に最新の情報を確認してください。
4. これからの最低賃金とどう向き合うか
これから、最低賃金との長い付き合い方について解説します。考え方を変えると、毎年の改定に振り回されなくなります。
- 4-1 毎年上がる前提で設計する
- 4-2 設計の不在が疲弊を生む
4-1 毎年上がる前提で設計する
最低賃金は、これからも上がり続ける前提で経営を組み立てます。
政府が高い目標を掲げている以上、毎年の改定を「今年だけの臨時対応」として乗り切るのは難しいからです。その都度あわてて値上げや人員調整をするより、上がることを織り込んで価格と生産性を設計しておくほうが、経営は安定します。
年に一度、改定の時期に合わせてコストと単価を見直す習慣をつくる。先に備えておけば、改定は危機ではなく、計画の一部になります。
4-2 設計の不在が疲弊を生む
最低賃金で苦しくなるお店ほど、根っこにあるのは設計の不在です。
コンセプト・教育・単価がバラバラのままだと、コストが上がるたびに現場の頑張りで穴を埋めることになり、スタッフもオーナーも疲れていくからです。逆に、これらが一枚の設計図としてつながっていれば、外部のコスト変動を吸収する余力が生まれます。VOCのテストサロンmonetでは、こうした設計を前提に出店し、全店が初月から黒字、半年以内に満席という形で実装してきました。
最低賃金の上昇は、自店の設計を見直すきっかけにもなります。値上げの数字をひねり出す前に、お店全体のつながりを描き直すことが、いちばんの対策になります。
まとめ:最低賃金は「設計」で乗り越える
最低賃金は2025年度改定で全国平均が約1,121円となり、政府は2020年代に1,500円という目標を掲げています。美容室では、アシスタントの人件費が自動的に上がり、社会保険料や仕入れ値の上昇も重なるため、価格を据え置けば利益が削られていきます。対応は、値上げの是非を論じる前に土台を整えること。コンセプトと価値を設計し、アシスタントの早期戦力化で生産性を上げ、単価とメニューを見直し、補助金や効率化も組み合わせる。そして毎年上がる前提で設計しておくこと。理念・教育・単価が一枚の設計図としてつながっていれば、最低賃金の上昇は危機ではなく、経営を見直す機会に変わります。
押さえておきたいポイントは次の通りです。
- 2025年度改定で全国平均は約1,121円。毎年上がる前提で備える(数値は2026年6月時点・厚生労働省)
- 人件費・社会保険料・仕入れ値が同時に上がり、価格据え置きは利益を削る
- 値上げの前にコンセプト・教育・単価設計を整え、原資を生む
- 補助金や効率化も組み合わせ、改定を計画に織り込む
よくある質問
Q1. 最低賃金が上がったら、すぐに値上げするべきですか?
すぐに価格だけを上げるのは、おすすめしにくいです。準備のない値上げはお客様の離反を招くことがあるからです。先に、自店のコンセプトや提供している価値が伝わる状態を整え、メニュー設計やカウンセリングで単価が自然に上がる仕組みをつくることが大切です。そのうえで価格を見直せば、納得して受け入れてもらいやすくなります。値上げは最後の調整であって、最初の一手ではありません。
Q2. アシスタントの給与は、最低賃金ちょうどに設定してよいですか?
法律上は最低賃金以上であれば問題ありませんが、改定のたびに見直しが必要になります。最低賃金ぎりぎりに設定していると、毎年の改定で自動的に昇給対応を迫られ、近隣店との差で採用にも響きます。金額だけで考えるより、早く戦力になれる教育の仕組みを整え、貢献に応じて給与が上がる道筋を見せるほうが、定着にも生産性にもつながります。
Q3. 小規模なサロンでも使える支援策はありますか?
最低賃金の引き上げに対しては、賃上げや設備投資を後押しする補助金などの支援策が用意されることがあります。要件や金額、募集の時期は年度によって変わるため、申請を考える際は、その時点の最新の公的な情報を確認してください。あわせて、予約や会計のデジタル化で事務の手間を減らすなど、補助金に頼らない効率化も組み合わせると、負担をやわらげやすくなります。

▶ この記事は美容室経営の教科書(全体像)の一部です。

