美容室が多すぎる、もう飽和している。そんな言葉を一度は耳にしたことがあると思います。実際に店舗数は過去最多を更新し続けていて、近くに新しいサロンができるたびに不安になる方も多いはずです。ただ、同じ市場の中でも、予約が途切れないサロンと、価格を下げても客足が戻らないサロンにはっきり分かれているのも事実です。この記事では、まず飽和と言われる現状を公的なデータで確認したうえで、なぜ厳しくなるのか、その中でも選ばれ続けるサロンが何をしているのかを、順を追って整理していきます。読み終えたときに、自店が明日から何を見直せばいいのかが見えてくる内容にしました。
この記事を3行で解説
- 美容所数は2024年3月末時点で約27.4万店と過去最多で、倒産件数も増えている。数字の上で飽和は事実に近い状況です。
- 飽和で厳しくなるのは、顧客総数が増えない中で価格と立地だけで戦うサロンが消耗するから。比較の土俵を自分で決められない店ほど苦しくなります。
- 生き残るサロンは、ポジションを定めて、専門用語ではなく顧客が欲しい変化で語り、価値を束ねて真似されにくい状態をつくっています。
1. 美容室は本当に飽和しているのか、現状を数字で見る
要点:美容所数は2024年3月末で約27.4万店と過去最多、倒産も最多ペース。数字の上で飽和はほぼ事実。
これから美容室が飽和していると言われる現状について解説します。その下で見ていくのは次の3つです。
- 1-1. 美容所数は過去最多を更新している
- 1-2. 倒産も増えてきている
- 1-3. 飽和の正体は店舗数だけではない
1-1. 美容所数は過去最多を更新している
店舗数という意味では、美容室はたしかに増え続けています。厚生労働省の令和5年度衛生行政報告例によると、美容所数は2024年3月末時点で27万4,070施設となり、過去最多を更新しました(前年度比でおよそ1.5%増)〔出典:厚生労働省「令和5年度衛生行政報告例」2024年10月29日公表・衛生行政報告例(生活衛生統計)〕。コンビニエンスストアの店舗数が全国で6万店ほどであることを思えば、その4倍以上の美容室が存在している計算になります。
増え続けている背景には、開業のハードルが比較的低いことがあります。面貸しやシェアサロン、1人でも始められる小規模店という選択肢が広がり、独立そのものはしやすくなりました。供給側が毎年増えていくのですから、1店舗あたりが向き合うお客様の数は、何もしなければ少しずつ減っていきます。これが、飽和と表現される状況の土台です。
1-2. 倒産も増えてきている
増えているのは開業だけではありません。閉店や倒産も同時に増えています。東京商工リサーチの調べでは、2025年1〜9月の美容室の倒産件数は92件で、集計開始以来もっとも多いペースとなりました〔出典:東京商工リサーチ「1-9月の『美容室』倒産、過去最多の92件」・TSRデータインサイト〕。競合の増加に加えて、人手不足や材料費の高騰が経営を圧迫していると分析されています。
つまり、出店も廃業も両方が増えているのが今の美容業界です。新しく開くお店が多い一方で、続けられずに撤退するお店も多い。入れ替わりの激しい市場になっている、と捉えるのが実態に近いと思います。これは新規参入だけでなく、すでに何年も営業しているサロンにとっても他人事ではありません。
1-3. 飽和の正体は店舗数だけではない
ここで一つ整理しておきたいのは、飽和という言葉が指しているのは店舗数の多さだけではない、ということです。本当に効いているのは、お客様の総数が増えていかない構造のほうです。
美容室マネジメントを体系化している株式会社VOCは、美容業界がぶつかっている構造的な逆風を三大苦と呼んでいます。少子高齢化によって顧客の総数そのものが減っていくこと、変化が読みにくく予測が立てづらい時代になっていること、そして労働環境への意識が高まり、これまでの働かせ方が通用しなくなっていること。この3つが重なっているため、店舗数だけを見て飽和と言うよりも、限られた需要を多くのお店で分け合う構造になっている、と理解したほうが打ち手を考えやすくなります。
2. なぜ飽和市場で経営が厳しくなるのか
要点:厳しくなるのは、増えない需要を価格と立地だけで奪い合うから。比較の土俵を選べない店ほど消耗する。
これから飽和市場で経営が厳しくなる理由について解説します。ここで取り上げるのは次の3つです。
- 2-1. 増えない需要を奪い合う構造
- 2-2. 価格と立地だけで戦うと消耗する
- 2-3. 一店舗の努力では覆らない逆風がある
2-1. 増えない需要を奪い合う構造
飽和市場でいちばん効いてくるのは、椅子取りゲームの椅子が増えないことです。人口が増え、髪を切る人が毎年増えていくのであれば、店舗数が増えてもそれぞれが成り立ちます。けれど現実は逆で、顧客の総数は緩やかに減っていきます。そこへ出店が続くわけですから、新しいお客様を集めること自体の難易度が年々上がっていきます。
この構造を理解せずに集客を頑張ろうとすると、広告費を増やしても新規が増えない、増えても定着しないという消耗戦になりがちです。新規獲得の競争には限界がある、という前提に立てるかどうかで、力を入れる場所が変わってきます。
2-2. 価格と立地だけで戦うと消耗する
選ばれる理由が価格の安さと立地の良さしかないお店は、飽和市場でとくに苦しくなります。安さで選ばれたお客様は、もっと安いお店ができればそちらへ移っていきます。立地で選ばれたお客様も、より便利な場所に新店ができれば同じことが起きます。どちらも、自分の力でコントロールしきれない要素だからです。
近隣に新しいサロンが開くたびに値下げで対抗していると、客単価が下がり、スタッフの待遇を維持できなくなり、結果として人が辞めていく。この悪循環に入ってしまうサロンは少なくありません。価格競争は、体力のあるお店ほど有利な戦い方なので、多くの個人サロンにとっては勝ちにくい土俵だと言えます。
2-3. 一店舗の努力では覆らない逆風がある
ここまで見てきたように、顧客減・人手不足・材料費の高騰といった逆風は、一店舗が頑張れば消えるものではありません。だからこそ、逆風そのものをなくそうとするのではなく、その中でも選ばれる理由を持つことに発想を切り替える必要があります。
マーケティングの考え方で言えば、製品やサービスを起点に売り込んでいく発想から、お客様のニーズを起点に選ばれる仕掛けをつくる発想へ移ることです。VOCはこれを、選ばれる手法としてのマーケティングと表現しています。社内ノウハウをまとめた『VOCノウハウ原本v1』も、マーケティングを「お客様に選ばれる手法」と定義し、「過度な売り込みなしに『選ばれるための仕掛け作り』を考える」ことだと説明しています。飽和市場で苦しいときほど、売り込みを強めるのではなく、選ばれる理由を整える方向に舵を切ったほうがうまくいきます。
3. 飽和市場でも選ばれるサロンの共通点
要点:選ばれる店はポジションを決め、専門用語でなく顧客の欲しい変化で語り、価値を束ねて真似されにくくしている。
これから飽和市場でも選ばれ続けるサロンの共通点について解説します。見ていくのは次の3つです。
- 3-1. 比較の土俵を自分で決めている
- 3-2. 専門用語ではなく欲しい変化で語っている
- 3-3. 価値を束ねて真似されにくくしている
3-1. 比較の土俵を自分で決めている
飽和市場で安定しているサロンは、ほかのお店と同じ土俵で比べられない状態をつくっています。マーケティングではこれをポジショニングと呼びます。価格や立地という、誰もが比べられる軸の上で戦うのではなく、自店にしかない軸を一つ立てて、その軸では一番に見えるようにするという考え方です。
たとえば縦軸と横軸でお店を並べてみて、競合が固まっているところを避け、自分が強く立てる場所を選ぶ。大人女性がゆっくり過ごせる髪質改善特化、子育て世代が通いやすい設計、頭皮の悩みに応えるヘッドスパ主役など、どんな人に何で選ばれたいかを決め切ることが出発点になります。比較の土俵を変えるほど勝ちやすくなる、というのは、限られた需要を奪い合う市場ほど効いてくる原則です。
3-2. 専門用語ではなく欲しい変化で語っている
強みを決めても、それが伝わらなければ選ばれません。ここでつまずくサロンが本当に多いです。良い技術を持っているのに、説明が専門的すぎて、お客様には違いが届いていないというケースです。
選ばれているお店は、専門用語ではなく、お客様がどうなれるかという変化の言葉で語っています。〇〇ケアや〇〇トリートメントという手段の名前よりも、朝が整う、扱いがラクになる、安心して任せられるといった、欲しい結果を前面に出すということです。人は手段ではなく、自分が手に入れる変化にお金を払います。難しい説明に寄るほど入口は狭くなるので、まず一言で、このお店に行くとどうなれるのかが伝わる状態をつくることが大切です。
3-3. 価値を束ねて真似されにくくしている
単品のメニュー一つで差をつけようとすると、似たメニューを出すお店が現れたときに、結局は価格で比べられてしまいます。長く選ばれているサロンは、複数の価値を束ねて、簡単には真似できない状態をつくっています。
整う体験を一式にして標準で提供する、自店だけのカウンセリングや空間づくりと組み合わせる、独自の基準や認定のかたちで言葉を自分のものにする。こうして価値を束ねると、お客様にとっては比べる対象がなくなり、他店にとっては真似のコストが高くなります。ちなみにテストサロンとして運営されているmonetでは、こうした設計を先に固めることで、全店が3ヶ月以内に黒字、半年以内に満席という形で立ち上がっています。提供する価値の幅を広げて束ねることが、飽和市場での参入障壁になっていく、という考え方です。
4. 明日から始める「選ばれる設計」の手順
要点:立ち位置を一枚で描く→メニューを削って強みに集中→二軸で土台を作る、の順で選ばれる設計をつくる。
これから飽和市場で選ばれるための具体的な手順について解説します。取り組みやすい順に3つ紹介します。
- 4-1. まず自店の立ち位置を一枚で描く
- 4-2. メニューを削って強みに集中する
- 4-3. ボトムとトップの二軸で土台を作る
4-1. まず自店の立ち位置を一枚で描く
最初の一歩は、誰に・何で選ばれたいかを一枚の紙に書き出すことです。ターゲットとなるお客様像、そのお客様が抱えている悩み、自店が一番に立てる軸を、できるだけ短い言葉でまとめます。長い説明は要りません。このお店は、こういう人が、こうなるために通う場所だ、と一文で言い切れるかどうかがポイントです。
ここが曖昧なまま集客や値付けを動かすと、施策がぶれて効果が見えにくくなります。逆に立ち位置がはっきりすると、広告の言葉も、メニューの構成も、スタッフへの伝え方も、すべて同じ方向にそろえやすくなります。
4-2. メニューを削って強みに集中する
選ばれる設計をつくるうえで、メニューを増やすより減らすほうが効くことが多いです。選択肢が多すぎると、お客様はどれを選べばいいか分からなくなり、決めること自体をやめてしまいます。種類を絞ったほうが、かえって選ばれやすくなるという考え方です。
残すべきは、自店のコンセプトとつながっているメニューだけです。最高の癒しを掲げるならそれに沿わない刺激的なメニューは思い切って外す、というように、何を残し、何を減らし、何を新しくつくるかを一度棚卸ししてみてください。メニューが減ると、覚えること、教えること、伝えること、在庫の管理まで一緒に軽くなり、強みにかけられる時間が増えます。
4-3. ボトムとトップの二軸で土台を作る
強みに集中すると決めても、専門性の高いメニューだけで売上を組み立てると、対応できるスタッフが限られて、母数が広がりません。そこで効いてくるのが、ボトムとトップの二軸という考え方です。
全スタッフが日々の接客の流れの中で提案できるライトな商品やメニューで土台をつくり、説明や専門性が必要な高単価のメニューはトップ層のスタッフに寄せていく。この二軸を分けて、それぞれに導線と教育を用意すると、売上の土台を保ちながら、強みでしっかり伸ばすことができます。全員に全部を売らせようとして失敗するより、役割を分けたほうが現場は回ります。
まとめ:飽和は前提、その中で選ばれる設計をつくる
美容所数は過去最多を更新し、倒産も増えている。数字の上では、飽和はもう前提として受け止めたほうがいい状況です。けれど同じ市場の中でも、選ばれ続けるサロンは確かに存在します。違いは、比較の土俵を自分で決め、欲しい変化の言葉で語り、価値を束ねて真似されにくくしているかどうかにあります。逆風そのものをなくすことはできなくても、その中で選ばれる理由は、設計でつくることができます。
とくに大切なポイントを整理します。
- 店舗数の多さより、需要が増えない構造のほうが効いている。集客を強めるより、選ばれる理由を整えるほうが先。
- 価格と立地だけで戦うと消耗する。自店にしかない軸でポジションを取る。
- 専門用語ではなく、お客様がどうなれるかという変化の言葉で伝える。
- 価値を束ねて参入障壁をつくり、ボトムとトップの二軸で売上の土台を保つ。
- まずは誰に・何で選ばれたいかを一枚で描き、メニューを強みに絞り込むところから。
よくある質問
Q1. 美容室はこれ以上増えないのでしょうか。
店舗数は当面、増加傾向が続く可能性が高いと見られます。厚生労働省の統計では美容所数は毎年更新を続けており、2024年3月末時点で約27万4千施設と過去最多になっています。一方で倒産や閉店も増えているため、出店と撤退の入れ替わりが激しい市場になっている、と捉えておくのが現実的です。
Q2. 飽和市場では値下げで対抗するしかないのでしょうか。
値下げは体力のあるお店ほど有利な戦い方なので、多くの個人サロンにとっては勝ちにくい選択です。価格の安さで集めたお客様は、より安いお店ができれば離れていきます。値下げで対抗するより、自店にしかない軸で選ばれる理由をつくり、その価値が伝わる言葉で発信するほうが、結果的に安定します。
Q3. 何から手をつければいいか分かりません。
まずは、誰に・何で選ばれたいかを一枚の紙に書き出すところから始めてみてください。立ち位置がはっきりすると、メニューの絞り込みも、発信する言葉も、スタッフへの伝え方も同じ方向にそろえやすくなります。大きな投資をする前に、自店の強みと立ち位置を言語化することが、いちばん費用をかけずにできる一歩です。

▶ この記事は美容室経営の教科書(全体像)の一部です。
免責事項:本記事は美容室の経営に関する一般的な情報提供を目的としたもので、特定の成果を保証するものではありません。記載のmonetの実績は、VOC・monetの自社実績に基づく参考値です。統計数値は出典元の公表時点のものです。
更新履歴
2026年6月24日:初版公開
2026年7月11日:厚生労働省「令和5年度衛生行政報告例」と東京商工リサーチの倒産統計に一次リンクを追加し、VOCノウハウ原本v1からの逐語引用・各章の要点・目次・免責を追記。monetの実績記載を最新の自社実績(3ヶ月以内に黒字)に更新。
