東京商工リサーチの調査で、2026年度上半期(4-9月)の「人手不足」倒産は240件と、年度上半期として過去最多になりました。なかでも「人件費高騰」が原因の倒産は130件で、前年同期から75.6%増えています〔東京商工リサーチ/TSRデータインサイト/2026年10月5日〕。賃上げの原資をどう作るかは、美容室にとっても避けて通れない問いです。この記事では、調査の中身を一次資料で確認し、賃上げできるかどうかを数字で判断する軸を整理します。
- 2026年度上半期の「人手不足」倒産は240件(前年同期比17.0%増)で過去最多。うち「人件費高騰」は130件(同75.6%増)です。
- 「人手不足」倒産の66.2%が資本金1千万円未満で、産業別ではサービス業他が91件で最多。小規模・労働集約型で目立つ結果です。
- 賃上げは「上げる・上げない」の二択にせず、年額負担・人件費率・価格転嫁・資金繰りの4点を数字で並べて決めます。
調査結果:「人手不足」倒産は上半期で過去最多
要点:2026年度上半期の「人手不足」倒産は240件で、調査を始めた2013年以降の年度上半期で最多です。
東京商工リサーチ(TSR)は、2026年度上半期(4-9月)の全国企業倒産(負債1,000万円以上)から、求人難・従業員退職・人件費高騰に関連する「人手不足」倒産を抽出して分析しました。後継者難は対象に含まれません。件数は240件で、前年同期比17.0%増です。コロナ禍の2021年度同期の26件を底に、5年連続で前年同期を上回りました〔東京商工リサーチ/TSRデータインサイト/2026年10月5日〕。
| 項目 | 件数 | 前年同期比 | 構成比 |
|---|---|---|---|
| 「人手不足」倒産(全体) | 240件 | 17.0%増 | ― |
| うち「人件費高騰」 | 130件 | 75.6%増 | 54.1%(人手不足倒産に占める割合) |
| 資本金1千万円未満 | 159件 | 33.6%増 | 66.2%(240件に占める割合) |
| 形態別:破産 | 229件 | 23.7%増 | 95.4%(240件に占める割合) |
| 産業別:サービス業他 | 91件 | 21.3%増 | ― |
| 産業別:建設業 | 55件 | 5.7%増 | ― |
出典:東京商工リサーチ/TSRデータインサイト「年度上半期の『人手不足』倒産 過去最多の240件」/2026年10月5日。サービス業他と建設業の2産業で60.8%を占めます。
とくに「人件費高騰」は130件で、前年同期から75.6%増と1.7倍に増え、「人手不足」倒産の半数超(54.1%)を占めました。TSRは、賃上げ圧力が中小企業の資金繰り悪化に拍車を掛けていると分析しています。また、大手と中小・零細企業の賃金格差は拡大しており、10月以降は全国で最低賃金が引き上げられるため、“賃上げ疲れ”が顕在化しているとしています〔東京商工リサーチ/TSRデータインサイト/2026年10月5日〕。
数字の読み方:言えることと言えないこと
要点:この調査は全産業の集計です。美容室だけの数字は、公表資料からは確認できません。
まず、この調査から言えることを整理します。賃上げの負担が資金繰りを圧迫して倒産に至るケースが、全産業で増えていること。そして、資本金1千万円未満の小規模企業と、サービス業他・建設業のような労働集約型の産業で目立つことです〔東京商工リサーチ/TSRデータインサイト/2026年10月5日〕。
一方で、言えないことも押さえておきます。
- 美容室の倒産が増えている、とは言えません。サービス業他の91件のうち美容業が何件かは、公表資料から確認できません。
- 賃上げをしたら潰れる、とも言えません。130件は「人手不足」倒産240件の内訳で、倒産全体に占める割合ではありません。
- 賃上げ自体が悪い、という話でもありません。TSRが指摘しているのは、賃上げの原資を確保できないまま負担が積み上がる状況です。
ここからは推測ですが、美容室は売上に占める人件費の比重が大きい労働集約型の業態と考えられるため、小規模サロンほど同じ構図の影響を受けやすい可能性があります。ただし、これはTSRの調査結果ではなくSALOG編集部の見方です。数字を過度に不安材料として受け取るのではなく、自店の数字で確かめるための材料として使います。
賃上げできない時の判断軸4つ
要点:「上げる・上げない」の二択にせず、年額負担・人件費率・価格転嫁・資金繰りの4つを数字で並べてから決めます。
最低賃金の改定は都道府県ごとに発効日が異なります。自店の地域がいつから変わるのかは、最低賃金の発効日をまとめた記事で確認できます。そのうえで、次の4点を順に確かめます。
3-1 賃上げの年額負担を出す
時給を上げた時の負担は、1か月ではなく年額で見ます。たとえば、時給を50円上げ、月80時間働くスタッフが5人いる場合、50円×80時間×12か月×5人で年間24万円です。これは仮の数字による計算例で、社会保険料の事業主負担や残業代への影響は含んでいません。実際の自店の時給・時間・人数で置き換えて、年額を出します。
3-2 売上に対する人件費率を把握する
人件費が売上の何割を占めているかを、自店の過去12か月で見ます。他社の決算は規模も業態も違うため、あくまで参考です。上場している理美容会社の決算から人件費率の考え方を整理した美容室の人件費率と利益の記事も、見方の手がかりになります。
3-3 価格転嫁で原資を作れるかを検討する
賃上げの原資は、利益を削るだけでなく、メニュー価格や客単価の見直しでも作れます。ただし、値上げが客数にどう響くかは店ごとに異なります。人件費の上昇を価格にどう反映するかの手順は、価格転嫁と人件費の関係を整理した記事にまとめています。
3-4 資金繰りの余力を確認する
賃上げは一度上げると毎月の固定費として積み上がります。数か月分の運転資金に余力があるか、借入の返済と重なっていないかを確認します。助成金や補助金の対象になる場合もあるため、利用できる制度は社会保険労務士や金融機関、商工会議所などの専門家に確認してください。
4点を並べて、「年額の負担を、価格転嫁と利益の範囲で賄えるか」が見えたら、全員一律で上げる、段階的に上げる、評価に連動させる、といった方法を選びます。制度・コストまわりの動きは美容室経営に効く業界動向2026にまとめています。
よくある質問
Q1. 「人手不足」倒産とは何ですか。
TSRの分析では、負債1,000万円以上の倒産のうち、求人難・従業員退職・人件費高騰に関連するものを抽出したものです。後継者難は対象外です〔東京商工リサーチ/TSRデータインサイト/2026年10月5日〕。
Q2. 美容室でも「賃上げ倒産」は増えていますか。
今回の公表資料からは確認できません。サービス業他の91件に美容業が何件含まれるかは示されていないためです。自店の判断には、全産業の数字ではなく自店の年額負担と人件費率を使います。
Q3. 最低賃金が上がる場合、スタッフ全員の時給を上げる必要がありますか。
最低賃金額を下回る時給は設定できません。下回っているスタッフがいれば引き上げが必要です。それ以外の昇給の進め方は個別の事情で変わるため、社会保険労務士にご相談ください。
出典
本記事は、東京商工リサーチの公表資料にもとづく一般的な情報提供であり、個別の経営・労務・税務・資金調達の判断を行うものではありません。具体的なご判断は、社会保険労務士・税理士・金融機関などの専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月10日 公開


